マージナル

 

 悲しいことがあって、一人夜の公園へ歩いた。夜の公園へ黙って出かけられるのは大人になったということじゃないかと思った。夜の公園に着いて、ブランコに乗る。久しぶりに漕ぐ。酔う。え? 漕ぐ。酔う。ええ。ブランコって酔うの。子供の頃、ブランコの繋がっている棒より高みを目指したのに、今は下の方でくすぶるだけ。だってどうせ、どこにもいけないから。どこにもいけないと知ったから。

 悲しいことがあって、お酒を飲んだ。お酒を飲めるのは、大人になったということだろう。お酒を飲んだ。なんでかって、悲しいから。お酒を飲むと、悲しいことを忘れられる……というわけでもないけれど。なんとなく、お酒を飲む。だってみんなそうしてるから。世界がほんのちょっぴり歪んで、何が辛いかわからなくなるから。何が辛いかわからなければ、何も考えずただ泣いていればいいから。赤ちゃんの頃と同じように。赤ちゃんと同じように泣いても、誰もあやしてくれないけれど。

 悲しいことがあって、悲しいことがあって、悲しいことがあって私は、私は勉強をした。本を読んだ。欲しいものを買った。食べたいものを食べた。会いたい人には会えなかった。せっかく迎えた二十歳の誕生日、会いたい人には会えなかった。家族に祝われているのに寂しかった。お酒を飲んでも、飲んでも、世界は私を大人にしてくれなかった。子供にしてくれなかった。前は持っていたのに、もう二度と戻らないものを知った。一番欲しかったものを、好きな人のおめでとうを、手に入れられなかった。私はきっと幸せになるのだと、子供の頃信じていた世界は崩れ去った。

 私は夜にしか公園へ行かない。私は悲しくても酒を飲むしかできない。ブランコでもう空には飛べない。ディズニーランドの端っこを知った。お酒の無力さを知った。自分の能力の端っこを知った。「ずっと一緒に」の無力さを知った。夜の短さを知った。

 でも、夜が終わることだけ知らなかった。